094 肩書き(レイロジャ/レイル/未収録ネタバレ)
──あァ、久しぶりだな、老いぼれめ。
おまえと初めて逢ったのは、もうずっと遙かな昔。
麦わら帽子のつばの下、あいつの瞳の中の、名もない船泥棒。
あいつの帽子が変わり、頬にヒゲが萌え始めた頃。
おまえもヒゲを伸ばし、「冥王」なんぞと呼ばれていたっけか。
「海賊王の右腕」なんて名もあったな。
耐え難い苦痛と戦うあいつの目は、それでも出逢った頃と変わらない、底知れぬ澄んだ水鏡のようで。
なあ、おまえ──あの澄んだ瞳に映る、私自身。
ずいぶんと、久しぶりだ。
……だいぶ、老けたな?
あいつはもういないけれど。
あの瞳はもう、おまえを映さないけれど。
同じ水鏡の瞳が、今再び私とおまえを出逢わせる。
なァ、おまえ。
夢果て老い朽ちた老人、名もない職人よ。
もう一度、新たな名前を探しに行こう。
今度は、そう──たとえば、「海賊王の師匠」ってのはどうだ?
☆☆
(メモ)
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