無理(都々逸6)

「……おい、ひでェツラだぞ」

声をかけたのに、厭味な意図はない。

ただ単純に、ひとつ船に命を預ける仲、ましてや生命線とも言えるメシの担当者の健康状態を気遣っただけだ。

だがクソコックは、やつれた顔の中から、ギロリと凄い目線をよこしやがった。

「放っとけ。マリモごときに口出しされる謂れはねェよ」

ことの起こりは、チョッパーだった。

船医としての立場から、コックの喫煙量を控えるようにと、ちっとばかりの苦言を呈したらしい。

それだけなら、なんということもないいつもの光景。

だが、コックにとって不運だったのは、たまたまそこにルフィがいたことだ。

「へェ、そんなにタバコって身体に悪いのか。じゃサンジ、おまえ次の港まで禁煙しろ」

コックの抵抗は、もちろんすさまじかった。しかし、船長命令でストックを抑えられれば、海の上で奴になすすべはない。

次の寄港地まで、あと3日。ニコチンの切れたコックの籠るキッチンは、一種異様なオーラを放っている。

懐から出したものを、ぽいとテーブルに放ってやった。

コックの目が反射的に動いて、そして大きく見開かれる。

「ジョニーだかヨサクだかの置き土産だ。……かなり前の吸い残しだから、シケてるかもしれねェがな」

スーツの胸が大きく呼吸し、腕が一瞬だけ伸ばされかける。

だがコックは次の瞬間、すっと身体から力を抜いて、めんどくさそうに目を閉じた。

「……おれの趣味じゃねェ銘柄だ」

「……」

「さっさとしまっとけ、マリモ。間違っても置いて行くなよ」

「……いいのか?」

「……船長命令だ。仕方ねェ」

酒瓶を確保して戻ろうとすると、ルフィとはちあわせた。

「よう、ゾロ。……なんだ、酒だけか?」

「コックなら中だ。……あまり虐めてやるなよ」

おれの言葉にきょとんと見開かれた目が、腹巻きから顔を出したタバコの箱を捉える。

にい、と、唇が吊り上がった。

「……そーだな。苦くねェキスには、そろそろ飽きた」

〈嫌なお方の親切よりも 好いたお方の無理がよい〉

☆☆☆

黒船長落ち?

喫煙の習慣に詳しくないので、大ボケをかましていたらすみません。

(メモ)

本日も拍手たくさんありがとうございました!モチベーションがなかなか持ち直さず、申し訳ありません。