『sacred night』

予感はあった。

たぶん、鍵を鍵穴に差し込んだ瞬間から。

扉の隙間から流れてきた空気は外気よりも僅かに暖かかったけれど、暖房の気配はまったくない。

扉の中には、背後の廊下の照明と、窓から差し込む外の明かり以外の光源はなく、出勤前と変わらない室内が薄闇にうっすらと浮かび上がる。

朝から今まで密閉されていた、自分以外誰にも乱されていないはずの空間。

……微かな、ほんの微かな、ひとつまみの隠し味のような、タバコの匂い。

胸がざわめく。

逃げ出したくなる。

それでも足は、勝手に前に進む。

叫びたいような、泣き出したいような、強い衝動が喉から声となって形を為す。

「……サンジ……?」

静まり返った室内に、応えはない。

かっと、頭に血が昇るのを感じた。

走るように廊下にあがり、手近な部屋の扉を乱暴に開く。

「サンジ!どこだ!?いるんだろ、出てこいサンジ!」

あの日からずっと、考えていた。考え続けていた。

次に会えたら、何と言おうか。

まずは一発殴って、それから。

だってズルいじゃないか。

何も言わずにあんなことをして、何も言わずに姿を消した。

おれに殴る余地も罵る余地も襟首つかんで問いただす余地も、

今までよくしてくれてありがとうと礼を言う余地も、

怒らせたり苦しめたりしたならごめんと謝る余地も、

それから、それから、それから。

ふっと、後ろから伸びてきた手に絡めとられた。

抵抗する暇もなく、廊下から広い部屋の中に引きずり込まれる。

……あの日以来、まともに入ることのできなかったリビングに。

「!……サンジ!?」

おれの肩と胴に、食い込むほどの力をこめて回された腕。

うなじにかかる吐息に混じって、低くおれの名が聞こえた。

「……ルフィ、」

窓の外の雨は、雪に変わっていた。

☆☆☆

「CoolRubber」さまリレー(サンルVer)、関係者DLF。

関係ないけどharukiさん、サンジが官能小説家なら、ルフィを担当編集にして、「作品のために協力しろ」とかやるのがテンプレートですな(笑)

追記:しばらく前からこっそりアピールしていた方にお返事いただけたので、晴れて「ふなで」に一件お迎え。

「裏通り宝石店」さま、今後ともよろしくお願い申し上げます!

(メモ)

拍手ありがとうございました。

お気が向いたら、またお寄りいただければ嬉しいです。