逢魔刻(麦わら劇場より、サンジーン×ルームズ)
霧の都と呼ばれはするが、空中を漂う粒子のほとんどは、並ぶ煙突の吐き出す煤煙だとやら。
とまれ、濃い灰色に沈む街を、彼の鳥打ち帽はためらいなく進んでいく。
大通りを曲がり、細い裏通りへ。娼婦や物乞いの横を通り過ぎ、まるで歩き慣れた庭園を歩くかのように、足音を高く霧に響かせ。
ふと足が止まったのは、濃い灰色が澱む路地。
「なァ、そろそろ出てこいよ」
振り返りもせずに、唇が言葉を紡ぐ。
「……それは、誘ってんのか、クソ探偵」
霧の中から返ったいらえは、低い男の声。
汚れた霧の中、金色の髪が光った。
「表通りじゃ、声かけづらいみてェだったからな。おまえ、意外と内気なんだな」
「──誰が内気だ。相変わらずふざけた野郎だな」
ぎろりとねめつける青い目を肩越しに振り返って受け止め、彼は破顔一笑する。
「機嫌悪ィな、殺し屋。景気悪いのか?」
「……そんなことを貴様に答える義務があるってか、名探偵殿?」
「いィや、別に。……ここはおれの街じゃねェし、おれは別に正義の味方じゃねェ。おまえの好きにすればいいんじゃねェのか、ゴルコ・サンジーン」
「……好きに、か」
一瞬に。
距離が詰められる。
眉間にぴたりと当てられた殺し屋の銃を見上げて、名探偵ルームズは声を立てずににいっと笑った。
「……これがおまえのしたいことか、サンジーン?」銃のくちづけと同時に首に巻き付いたゴムの腕は、おそらく発砲と同時にサンジーンの呼吸を止めるだろう。
「……いィや、おれがやりたいのはこっちさ」
煙草を吐き出す。
目の前の息を奪い、その不敵な笑みを喰い殺すために。
☆☆
サンルへの3つの恋のお題:裏通りに連れ込んで/それ、誘ってる?/すきにして、いいよ。 http://shindanmaker.com/125562
スパークは無事終了しました。
スペースにおいでくださったみなさま、ありがとうございました!
その後のアフターで、意外にも「名探偵ルームズ」ネタの知名度が低いことが判明したので、布教用小ネタ。
(メモ)
拍手ありがとうございました!