薫る君(サボ誕/IF)
「今日もよい香りですこと、〈薫る君〉」
柔らかで美しく、そして傲慢な響きを備えた女の声。
〈彼〉は、穏やかな微笑を返し、女の手を取る。
「お気に召したなら何よりです、姫」
──その手がかつて、鉄パイプを握っていたことを知る者は、ほとんどいない。
貴族の姫君達は、レースの扇子の陰でひそかに囁き交わす。
国で一番高貴な姫の目下のお気に入りは、名門出身の若者。
短く刈って丁寧に整えた髪は金色。
寡黙で穏和ながら、剣を取れば無双。
常に焚きしめた香の薫りに、いつしか人呼んで〈薫る君〉。
「来月のパーティーにおいでくださいますわよね、〈薫る君〉」
しなだれかかる白い手と甘い吐息を、柔らかく止めて、青年は首を振る。
「残念ですが、来月は無理です。……その前に、私の17歳の誕生日が来ますので」
「誕生日?」
「ええ。……誕生日の前に、どうしてもやらねばならないことがあるので──」
──おれは17になる前に、海に出る!
──これから先、どんな道を歩こうと、おれ達は兄弟だ!
忘れるものか。一時たりとも忘れるものか。
豪奢な流行の服を纏い、さざめく人々の空虚な付き合いに時間を空費し、姫君達の脂粉にまみれながら、ただこのときを待っていた。
心を凍らせ、上辺を飾ることを覚え、舌をもう一枚生やし、親も周囲もすべてを偽った。
兄弟たちと、あの青の彼方で再会するため。
エースとルフィのためになら、それ以外のすべてはいらない。
泥にまみれても、あの二人なら必ず、笑って自分を抱きしめる。
さあ、出航の準備をしよう。
まず最初にすることは決めている。
──この町の悪臭を消すための香は、もういらない。
☆☆
視点が不安定ですまん(汗)
もう少し長めにじっくり書くネタのような気がするが、眠いのでこれで勘弁。
ルフィのもう一人の、「一番上のお兄ちゃん」。
お誕生日おめでとう!