毛布(サボ/ジャンプネタバレ)
毛布が欲しかったんだ。
ゴア王国は、基本的に温暖な気候の土地だ。
話に聞くグランドラインなどとは違い、きちんとした四季があるけれども、夏の陽光は灼熱と呼ぶには足りないし、冬といっても雪など数えるほどしか降らない。
だけどそのときのおれは、毛布が欲しかった。
数日前から寒気がしていて、体がだるい。
でもそれを訴える相手は、どこにもいない。
本が積まれた、寒々しい子供部屋を出て、廊下を歩く。なんだか足がふらふらして、歩きにくい。
頭の中で、頼るべき人を考える。
お父さん?
──朝から家のあちこちで怒鳴り声がする。
メイドたち?
──浮き足立った様子で、家中を走り回ってる。
お母さん?
──さっき、出入りの宝石商の声がした。
朦朧とした頭を軽く振って、足を進める。
綺麗に掃除された廊下には、誰もいない。
……どこかの部屋から漏れる、優雅な楽の音。
そうっと覗き込んだ扉の向こうには、お上品な作り笑いと華やかな衣装に飾られた、大人たち。
──その頭に角が、その口に牙が見えるのは、視界が揺らいでるせいなんだろうか……?
どす!
……衝撃に、目を覚ました。
素通しの窓から射す月光が照らすのは、ゴミ山から拾い集めた端材をつなぎ合わせた、粗末な部屋。
──本を積み上げた、冷たい子供部屋じゃない。
「……ん……くす……」
見れば、おれの腹の上にのしかかって、ルフィがなにやら寝言を呟いている。
さっきの衝撃は、どうやらこいつのせいらしい。相変わらず、ひどい寝相だ。
「……おい、ルフィ。重いぞ、降りろ」
引きはがそうと、自由な方の腕を上げ、……られなかった。
反対側から聞こえる、すやすやと安らかな寝息。
「エース!おい起きろ、おれの腕の上で寝るな!」
答えは、高らかないびきが一つ。
ああもう。
なんなんだ、こいつらのこのいぎたなさは。
「……仕方ねェなァ……」
腹と腕、二つの重石にのしかかられちゃ、動くのもままならない。
怒鳴ったって起きやしねェし、報復は日が昇ってからだ。
諦めて、おれはまた目を閉じる。
腹と腕の、確かな存在。
……毛布はもう、必要ない。
☆☆
サボ萌えのあまり、ネタバレメル友の皆さんに発作的に送ったネタ。
今週ネタでは、エールをひとつどうしても書きたい…!
(メモ)
拍手ありがとうございました!