ためしにちょっとだけ
「おい」
「──あ?」
低く押し殺した、凶暴な響きをもつ返事が返る。
どうやら、我が兄弟兼親友は、相当煮詰まっているようだ。
「……いい加減、リビングをぐるぐるうろつくのは止めろ。そのうちバターになっても知らねェぞ」
テキストから目を離さずに語を継ぐと、うるさい足音がぴたりと止まった。
──ありがたい、これでこれ以上、レポート製作を邪魔されずにすむ。
だが、その考えが、蜂蜜よりも甘いことはすぐにわかった。
止まった足の持ち主は、そのままバタバタと騒がしくスリッパを鳴らしながらこちらへやってきて、おれの隣に乱暴に座る。
「……おい」
「何だ」
「お前は平気なのかよ、落ち着き払った顔しやがって」
「……そう見えるか?」
「……」
相棒の強い視線が、おれの頬に当たるのを感じる。そのまま視線は、おれが手にした本に向かう。
「……。おまえ、その本、何のレポートの資料だ?」
「マゼラン教授の薬学」
「……媚薬のレポートとか、あのオッサン、点くれるのか?」
「さあな」
会話が途切れ、沈黙が訪れる。
扉一枚向こうのキッチンから聞こえてくるのは、明るい声。
「サンジ、なんだこれ、うまそうだ!」
「おれさまのつくるもんがまずいわけねェだろ。──て、いきなり食うな、ガキ!」
「……」
「……」
リビングには沈黙。
キッチンには喧噪。
「口寂しいなら、あとでキスでもしてやるから、おとなしくしとけ!」
キッチンにいるのは、おれたちの弟と、新参の家政夫。
自称、弟の恋人。
☆☆
「邪魔すんな」
(メモ1)
励ましのお言葉とメッセージ、いつもありがとうございます!
ええまあそりゃ需要は2の方が比べものにならんほど大きいのはわかってますが(笑)
しかしサンルとしてはこれ、かなりひねくれたネタになるうえ、先日オフ誌に寄稿したネタが下敷きなんでどうしたものやら(笑)
(メモ2)
拍手ありがとうございました。