3.八重歯(ロール/パラレル)

何度言っても、こいつはおれの牙を恐れない。

「あァ、知ってる。そういうの、八重歯ってんだろ」

あっけらかんと言い放たれ、悪戯な笑みを浮かべた唇が、頬に降る。

「なんで怖がんないといけねェんだよ?おれ、その歯好きだぞ。おまえとキスしてんのよくわかるし」

頬から唇の端、そしてはみ出した牙の先が、柔らかな舌に撫でられる。

「……」

一瞬、噛み裂いてやろうかとの衝動に駆られる。

目の前の瑞々しい項に食らいつき、深く穿ち、甘美な血潮を味わう。それがどれほどの快楽か、この牙は知っている。

そして、

「……だから、おれの血を吸いたきゃ吸っていいぞ」

そうなれば、この瞳に宿る意志の輝きを、二度と見ることがないことも。

「……バカ抜かせ、おまえのゴム臭い血なんざ吸えるかよ、麦わら屋」

柔らかな舌先に、戯れに牙を触れ合わせる。

あとほんのわずかな力を込めれば、こいつは永遠におれのものになり──おれは永遠にこいつを失う。

それがいつになるのかは、この牙しか知らない。

☆☆

生存報告。

いくつか拍手ありがとうございます。

ロール特集中断してて申し訳ない。

八重歯ネタが思いつかなかったので、発展させてみたら吸血鬼ネタになった。なぜだ。

ていうかこれ別にロールじゃなくても(禁句)。