081 聞こえる(ガープ)

それはまるで、海の遠鳴りのように。

強く弱く、大きく小さく、うねり猛る音の波。

無数の声が、無数の意志が、心を一つに、ひとつの単語を形作る。

……まるで22年前の、あの日のようだ。

「……ス」

「……ー……ス!」

おまえはわしの前で産声を上げた。

わしの前で泣き、笑い、生きていていいのかと訊いた。

わしの前で愛し、憎み、自らの道を選んだ。

わしはおまえの誕生を見た。

おまえを愛しみ、育んだ。

おまえを導き、守ろうとした。

……おまえをこの世に生かしてよいのかどうか、常に迷っていた。

──女の子なら、アン。男の子なら、……

「エース!」

「今助けるぞ、エース!」

「おまえを傷つける奴は、おれ達が許さない!」

……聞こえるか、ロジャー。

どうやら、貴様とわしの選択が、実を結ぶときが来たようだ。

貴様の決めた名前を唱えながら、海の王の怒りが正義を打ち砕こうとする。

世界の敵の血を引く子供。

……それでもわしは決して、この子を生かしたことを悔いはしないだろう。

☆☆

(メモ)

拍手ありがとうございました。