066 去る(エース)

……あァ、大丈夫だ。まだくたばっちゃいねェよ、親分。

──もう少し……話していいか。

三年前、育った島を出た。

海賊になるのはガキの頃から決めてたし、船出のために資金も貯めてた。

……本当は、もっと早く、海に出たってよかった。

あんたも知ってるように、おれは……この世の誰もが、聞けば震え上がるような、悪名が欲しかった。世界に名を轟かす悪党になって、おれという存在を刻みつけたかった。

だけどそれよりも、……弟を一人にしたくなかった。

おれがいなくなれば、あいつはまたきっと泣く。

……おれ達のもう一人の兄弟がいなくなったときに、一晩泣き明かしたように。

わかってる、あいつも今は、世界にちったあ名を知られた海賊だ。

強い拳もある、慕う部下もいる。あいつを見て、恐れおののく奴もいるだろう。

だけど、おれは知ってる。どんなにあいつが強くても、たとえあいつの名前が恐怖とともに囁かれることになっても。

それでもあいつは、大切なものとの別れに泣きわめき、──ひとりはイヤだと言うだろう。

なあ、だから、ジンベエ、頼む。

もしもこのまま、おれが死んだら。

☆☆

(メモ)

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