未だ見ぬ海

「幸せはシャンソニア劇場から」を観てきました。またしても趣味からかけ離れたチョイスですが、例によって試写会タダ券をいただいたせいです。
しかしこのルート、フランス映画しか試写しないんだろうか…。


物語はひとりの冴えない殺人犯の告白から始まる。
1936年を迎えたパリで、ひとつの劇場が閉館する。かつては歌姫ローズ、バンドマスター「偉大なるマックス」を抱え、名を馳せた劇場だが、昔日の面影はもはやない。
劇場に35年勤めたピゴワルも失職、妻は不倫のあげく逃げ、ついには「定職がない」を理由に、最愛の息子ジョジョすら奪われる。まさに踏んだり蹴ったり。
そこでピゴワルは一大決心、劇場を追われた仲間たちとともに劇場の再興をはかる。
当然、劇場を閉鎖に追い込んだ大地主が妨害に来るが、彼は偶然にも劇場に職を求めて現れた若い娘に一目惚れ。彼女のため、スポンサーをかって出るが、またその娘──ドゥースが拾いもので、美しいだけでなく、聡明で、歌の才にも恵まれていた。
新生シャンソニア劇場は幕を開く。いつかみんなで海にバカンスに行こう、とピゴワルは言う。彼はまだ海を見たことがない。


興業師映画としては、以前に「プロデューサーズ」を見てたので、ああいう明るいストーリーをイメージしてたのですが(タイトルもそれっぽいし)、むしろ鬱といっていい展開の数々にびっくりしたぜ…。いやまあプロデューサーズもいきなり大コケから始まるけどな。
この薄暗い感じがおフランスの味であろうか。

再起したと思ったらコケ、そうかと思えば「偉大なるマックス」復活でまたしても状況激変、絶望、裏切り、友情、プライド、恋愛、純情、盛りだくさん。
え、そこでこう来ちゃいますか!と何度思ったやら。さすがおフランス映画。

個人的には、ええトシして娘ほどの女に本気で恋をしてる大地主がなんつーか。
いや、恋に年齢はないと思うけど、因果を含めて押し倒したならそのままいっちまえばいいものを、「こんなことは望んでない…いつか君が私を愛するまで待つ」てのはいくらなんでも自信過剰でないかい。レイプ未遂した、親子ほど年の違う男を愛する女は少ないと思うよ、うん。しかも彼女のそばにわりとイケメンの左翼役者がいたりするとねー。まあその純愛にきゅんとせんでもないが、その「きゅん」はどっちかというとかわいそうなものを見るときの「きゅん」だ、おっさん…。

しかしそれはさておき、ピゴワルの「殺人」は、今ならいろいろ酌量されそうだけど、戦前の暗黒のパリではあんなもんなのか…。おそろしや。



「あの劇場と、そこから生まれる恋を消したくない」とマックスは言った。
海に行きたいと願ったピゴワルは、下町を離れなかった。
これが「フランスばんざい」というやつでしょうか、最後の授業の先生。…いや、オスカルさまだったっけ?