少年の日(冬)
「それでな、エースがな、」
……ああ、今日は『黒』の方か。
深夜のキッチン。
今日の片付けと、明日の下拵え。
おとなしくテーブルに座って、とりとめもない話をするルフィ。
いつからだろう。
時々、おれはルフィと一緒にこういう時間を過ごすようになった。
食い物は出さないぞ、ときつく言ってある(たまに残り物を与えることもある)。
ルフィも、別にしつこくねだったりはしない(腹の音が雄弁に語ることもある)。
ただ訥々と語られる、ルフィの兄貴や昔の恩人の話を、皿を洗ったりスープを煮たりしながら、聞くともなしに聞く。
穏やかで、平和で。
そして、地獄のような焦燥の時間。
ルフィの唇からさも愛しげに漏れるふたつの名は、銀の針のように胸を刺す。
なあルフィ。
……おれがおまえに惚れてることを、知ってるか?
〈君は夜な夜な毛糸編む
銀の編み棒に編む糸は
かぐろなる糸あかき糸
そのラムプ敷き誰(た)がものぞ〉
(佐藤春夫「少年の日 冬」)
☆☆☆
やろうと思えば、できなくはなかった。
むしろ夏が難しいかもしれぬ。
(メモ)
拍手ありがとうございました。
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